労働審判に関する よくある質問

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労働審判に関する「 よくある質問 」をまとめましたので、ご参照ください。

労働審判の特徴

労働審判は、訴訟とどう違うのですか。

 労働審判と訴訟とでは、主に下記の3つの点で異なります。

  1. 判断主体の違い
  2. 審理対象の違い
  3. スケジュール感(審理期間)の違い

1 判断主体の違い

 訴訟では、裁判官が審理を行い、判決を言い渡します。裁判官は、事案によって、1名が担当する場合もあれば、3名の合議体で審理する場合もあります。

 労働審判では、裁判官1名(労働審判官)、使用者側の経験を有する民間から選任した労働審判員が1名、労働者側の経験を有する民間から選任した労働審判員が1名の、合計3名の合議体(労働審判委員会。労働審判法第7条〜第13条)で審理を行います。

 つまり、訴訟では裁判官によってのみ審理が行われますが、労働審判では、民間の有識者が審理に加わるという点が、訴訟との大きな違いと言えます。

 参考:労働審判員(裁判所ホームページ)

2 審理対象の違い

 訴訟は、法律上の争訟であれば審理の対象となります。また、労働事件に関して言えば、付加金(労働基準法第114条)の請求も可能です(付加金とは、裁判所が、残業代(割増賃金)等を支払わなかった使用者に対して,使用者が支払わなければならない金額と同一額の支払いを命じることができるという制度です。)。

 労働審判は、「労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争」(労働審判法第1条)のみを対象としています。そのため、労働組合と企業の間の紛争は対象外となります。

 労働審判は 企業 対 個人 の労働紛争に限るのに対し、訴訟ではそれ以外の紛争を含む点でも異なっています。

3 スケジュール感(審判期間)の違い

 民事訴訟は、審理回数などに制限はなく、解決までに数年を要する事件もままあります。その分、丁寧な主張立証が可能です。

 労働審判は、原則3回までの審理で事件を終了させることになっています(労働審判法第15条2項)。期日と期日との間は1ヶ月程度ですから、双方の準備期間が短く、迅速に準備を行う必要があります。主張や証拠は最初の期日までに提出するのが通常で、概ね第1回の期日にて、裁判所側の方向性が出ることが多いと言えます。他方で、争点や証拠の多い事件の審理には不向きです。

 じっくりと時間をかけてでも丁寧に主張をしたい場合には訴訟が向いていますが、短期間で終わらせたいという場合には労働審判が向いていると言えます。

労働審判のメリットとデメリットを教えてください。

 メリットとデメリットは次のようなものが考えられます。

メリット

 原則3回の期日で終了するので、早期解決が図れます。また、審理は非公開です(労働審判法第16条)。

デメリット

 納得のいく結論が出ないと、審判後に訴訟移行し、そこから訴訟がスタートするため、最初から訴訟提起した場合と比べて、かえって時間がかかることもあります。
 また、取扱い裁判所が限られており、神奈川県内では横浜にある横浜地方裁判所本庁のみでしか取り扱っていません。
 対象事件について、当事者や争点の多い事件には向いていません。

労働審判は、どれくらい利用されていますか。

 裁判所が公開している司法統計(第91表)によると、新たに提起された労働審判の数は、令和3年度は3,609件、令和2年度が同3,907件、平成31年・令和元年度が3,665件となっています。単純に計算すると、全国で、1日10件ほどの労働審判が申し立てられている割合になります。

令和3年度 司法統計年報(民事・行政編)第91表 労働審判事件数−事件の種類及び新受、既済、未済− 全地方裁判所
出典:令和3年度 司法統計年報(民事・行政編)第91表 労働審判事件数
−事件の種類及び新受、既済、未済− 全地方裁判所  
令和2年度 司法統計年報(民事・行政編)第91表 労働審判事件数−事件の種類及び新受、既済、未済− 全地方裁判所
出典:令和2年度 司法統計年報(民事・行政編)第91表 労働審判事件数
−事件の種類及び新受、既済、未済− 全地方裁判所
令和元年度 司法統計年報(民事・行政編)第91表 労働審判事件数−事件の種類及び新受、既済、未済− 全地方裁判所
出典:令和元年度 司法統計年報(民事・行政編)第91表 労働審判事件数
−事件の種類及び新受、既済、未済− 全地方裁判所

労働審判を申し立ててから終わるまで、どれくらいかかりますか。

 労働審判手続の審理期間については、申立てから審理終結まで、3ヶ月以内の事件が44.9%、6ヶ月以内の事件が約89%です。ただし、この統計では、異議申立て等によってその後訴訟に移行している事件も含まれています。

労働審判の審理期間別の既済件数、事件割合、及び平均審理期間表-既済件数:3,755、平均審理期間(日):107.5、1月以内:82(2.2%)、1月超2月以内:651(17.3%)、2月超3月以内:953(25.4%)、3月超6月以内1,671(44.5%)、6月超:398(10.6%)
出典:「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」(第9回)
「III 地方裁判所における民事第一審訴訟事件の概況及び実情」

労働審判の手続について

労働審判を申立てる際の費用はどれくらいですか。

 自社で対応する場合には、実費が必要です。弁護士に依頼する場合、実費に加えて、弁護士費用の着手金、報酬、日当が必要になります。

 実費には、申立書に添付する印紙代(申立手数料)と裁判所に納付する切手代、交通費などが含まれます。

 また、当事務所における労働審判の着手金は、22万円(税込)以上です。報酬は経済的利益(請求額)によって、計算します。また、そのほかに、遠隔地に移動が必要な場合は、出廷日当がかかります。

 詳細は、労働審判の費用をご確認ください。

労働審判は、どの裁判所に申立するのですか。

 労働審判の管轄は、労働審判法第2条によって、下記のように定められています。

第二条 労働審判手続に係る事件(以下「労働審判事件」という。)は、相手方の住所、居所、営業所若しくは事務所の所在地を管轄する地方裁判所、個別労働関係民事紛争が生じた労働者と事業主との間の労働関係に基づいて当該労働者が現に就業し若しくは最後に就業した当該事業主の事業所の所在地を管轄する地方裁判所又は当事者が合意で定める地方裁判所の管轄とする。

 労働審判事件は、日本国内に相手方(法人その他の社団又は財団を除く。)の住所及び居所がないとき、又は住所及び居所が知れないときは、その最後の住所地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。

 労働審判事件は、相手方が法人その他の社団又は財団(外国の社団又は財団を除く。)である場合において、日本国内にその事務所若しくは営業所がないとき、又はその事務所若しくは営業所の所在地が知れないときは、代表者その他の主たる業務担当者の住所地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。

 労働審判事件は、相手方が外国の社団又は財団である場合において、日本国内にその事務所又は営業所がないときは、日本における代表者その他の主たる業務担当者の住所地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。

労働審判法(平成十六年法律第四十五号)

 

 つまり、相手方の住所や営業所・事務所の所在地、労働者が働いている(働いていた)所在地を管轄している地方裁判所、または当事者が合意で定める裁判所のいずれかに申立書を提出します。

 また、具体的に管轄を有している裁判所は、各地方裁判所本庁のほか、一部の支部(東京地裁立川支部,静岡地裁浜松支部,長野地裁松本支部,広島地裁福山支部,福岡地裁小倉支部)となります。支部については、一部の支部のみの取り扱いとなるので、注意が必要です。

労働審判の申立に必要な書類には、どのようなものがありますか。

 労働審判の申立において、裁判所に提出すべき書類等は、申立書・申立書に添付する印紙(申立手数料)・裁判所に納付する切手が必要です。

 そのほかに、相手方が法人の場合には商業登記簿謄本又は登記事項証明書等が必要になります。法務局で取得することができます。

 また、証拠書類として、雇用関係や雇用内容の詳細がわかる書類、主張や見込まれる争点を立証する証拠の提出が必要になります。

 たとえば、雇用関係や雇用内容の詳細がわかる書類としては、雇用契約書・就業規則などがあり、雇用の実態がわかる書類としては、給与明細・源泉徴収票・タイムカードや出勤簿などが挙げられます。

 なお、提出する部数については、各書類について、相手方の人数分と労働審判委員会3名分を準備する必要があります。

労働審判の出口(=どのような形で終了するのか)には、どのようなものがありますか。

 労働審判の終わり方には、次のようなものがあります。

調停

話し合いがまとまった場合は、調停成立となります。労働審判の約7割は、調停により終了しています。

審判

話し合いがまとまらなかった場合等に、審判体が審判という形で結論を出します。審判に対して異議が出されると、訴訟に移行します。

 このほかに、取下げ(労働審判法第24条の2)、移送(労働審判法第3条)、終了(労働審判法第24条)、却下(労働審判法第6条)などがあります。

相手が不出頭の場合には、どうなりますか。

 審判体は、続行期日を指定するのか、審理を打ち切って審判をするのか、それとも申立人に取り下げを求めるのか等、状況に応じて決めることになります。 

 なお、制度上は、正当な理由がなく不出頭の場合には、5万円以下の過料を課すことができます(労働審判法第31条)。

労働審判手続において労働審判が出た場合、どうすれば良いですか。

 審判内容を検討し、受け入れるのかどうかを決めます。受け入れるのであれば確定を待ち、受け入れないのであれば異議申立てを行います。

 異議申立ては、審判内容の告知を受けた日又は審判書の送達を受けた日から2週間以内に行う必要があります(労働審判法第21条1項)。

 異議申立てを行うと、事件は訴訟に移行します(労働審判法第22条1項)。

 なお、自分が審判を受け入れたとしても、相手方が異議申立てを行ったときは、審判は確定せず、訴訟に移行します。

労働審判の審判が確定すると、どうなるのですか。

 確定した労働審判には、裁判上の和解と同一の効力が生じます(労働審判法21条4項)。

 裁判上の和解は、確定判決と同一の効力があります(民事訴訟法第267条)。

 そのため、労働審判に従わない相手方当事者に対して、資産の差押などの強制執行を行うことができるようになります。

 また、同一の事案については、再度争うことができなくなります。