民事訴訟 の流れ

以下では、例外的なものや細かいものを省いて、 民事訴訟 の大まかな流れを記載します。

1 訴訟 の準備

 紛争解決の手段として訴訟を検討する場合には、下記の点などを検討するとともに、訴訟に何を求めるかを明確にした上で、訴訟を起こすのかどうかを決断することになります。

  • 請求を基礎付ける事実(要件事実といいます。)が揃っているのかどうか
  • 証拠があるのかどうか(不十分であれば証拠収集を先行させます。)
  • 消滅時効など、請求を妨げる事情がないかどうか
  • 相手からどのような反論・反証が予想されるか
  • 勝訴した場合に、相手から回収する目処が立つのかどうか
  • 費用対効果
  • 訴訟終了までにかかる期間の見通し

 裁判所の選択も、場合によっては重要になります。相手が遠方に住んでいる場合には、どの裁判所に訴訟提起するのかが重要となり得ます(土地管轄)。また、訴訟対象の金額が140万円以下であれば、地方裁判所だけでなく、簡易裁判所に訴訟提起することができます。

 事実や証拠が不十分であったり、相手に資産がないような場合には、どの程度なら妥協ができるのかについてもある程度検討しておくと、訴訟の早期終了につながり易いと言えます。

2 訴え提起

 訴訟を提起する方針が決まったら、訴状を作成し、訴状の内容を裏付ける証拠を裁判所に提出する準備をします。

訴状に添付する書類(証拠以外のもの)

  • 弁護士を選任している場合には、訴訟委任状を裁判所に提出します。
  • 法人等が当事者の場合には、資格証明書として、いわゆる商業登記簿謄本(登記事項証明書)等を法務局から取り寄せます。
  • 登記されない団体の場合には、代表権を証明する資料(総会で理事長等を選任した際の総会議事録の写し等。総会で役員のみを選任してその後の役員会で「長」を選んだ場合には、さらに役員会の議事録も提出。)を提出します。

 訴状には必要な額の印紙(裁判の申立手数料)を貼付し、併せて指定額の切手を裁判所に収めます。切手は、地方裁判所・高等裁判所の場合は、電子納付(登録手続が必要)や銀行振込が可能です。

 証拠は、この段階では書証のみの提出になることが多いでしょう。原告の提出する書証には、「甲○号証」という番号を付けます。裁判所用と相手方用、そして自分用の証拠を作成(コピーを作る。)し、裁判所用と相手方用の証拠を訴状と一緒に裁判所に提出します。外国語の文書の場合には、日本語訳を添付します。

 訴状を裁判所に提出すると、裁判所が訴状の審査を行い、不備があれば補正の連絡があるので、原告において補正します。

 補正が済むと、第一回口頭弁論期日の日程を調整し、裁判所から相手方(被告)に訴状が送達されます。なお、訴えた方は、「原告」と呼ばれます。訴えられた方は、「被告」です。

 訴状が相手方に届かない場合には、所在調査を行い、公示送達(裁判所の掲示板に一定期間掲示することで、相手方に訴状が届いたことにする制度。)を検討します。


参考(裁判の申立手数料となる印紙代について):手数料(裁判所ホームページ)

参考(横浜地方裁判所管轄の場合の切手について):郵便料の納付について(裁判所ホームページ)

※簡易裁判所・家庭裁判所の場合、切手は電子納付、及び銀行振込の取り扱いがありません。
 切手の必要枚数も地方裁判所とは異なりますので、裁判所にお問い合わせください。

3 第1回口頭弁論期日

 第1回口頭弁論期日の当日は、原告(訴えた側)が訴状を陳述し、証拠の取調べが行われます。書証を提出した場合には原本を持参し、提出したコピーと相違がないか、裁判所で確認します(最初から書証をコピーとして提出した場合は不要。)。

 被告から答弁書(訴状の内容について合っているところ・間違っているところを指摘したり、被告の主張を記載する書面のこと。)の提出がなければ、この時点で審理が終結となり、訴状の内容に問題がなければ、訴状のとおりの判決が言い渡されることになります。答弁書を出さないと敗訴が確実ですから、訴えを起こされた場合において訴状の内容に異議があるときは、少なくとも答弁書は出しておいた方が良いということになります。

 被告から答弁書の提出があるときは、答弁書を陳述し、被告側の証拠提出もあれば、その取り調べを行います。なお、地方裁判所は第一回目の期日に限り、簡易裁判所は回数に制限なく、出席しなくても書面を陳述した扱いにしてもらえる制度があります(擬制陳述。民事訴訟法158条。)。

 以上を終えると、次の期日までに双方がどのような活動(主張を追加する、証拠を追加する、など。)を行うのかという見通しを示し、次の期日の日時が決定されます。被告が出廷せず、答弁書も出さない場合には、第一回口頭弁論期日にて結審となり、判決言渡し期日が指定されます。

4 第2回目以降の期日

 第2回目の期日では、第1回目期日で予定したとおり、一方が主張書面を提出したり証拠を提出し、さらに次回に他方がこれに応酬するという方式で訴訟が展開していきます。期日を重ねて、主張や証拠提出がひと段落したところで、和解を試みるのか、それとも証人尋問に進むのかを検討することもよくあります。

 期日は、当事者が裁判所に出向いて行う方法の他、代理人(弁護士)が選任されている場合には、電話会議方式や、最近ではMicrosoft社のTeamsアプリを使ってTV電話方式で行われることもあります。

5 証拠調べ

 証拠調べとは、要するに証拠の内容を確認することです。

 書証

 書証(書面)であれば、取り調べ時に内容を見たり読んだりします。実質的には、裁判所に提出された段階で、随時裁判官が内容を確認をしているものと思われます。

 録音したテープ(今はICレコーダー等で電子的に記録されたものが多いと思います。)や動画は、準文書として、書証と同様の扱いがなされます。当該データをCD−Rなどに入れて提出すると同時に、録音であれば日本語に書き起こして書面化したもの(「反訳」と言います。)を、動画であれば重要部分の静止画を印刷したものを、それぞれ添付します。

 人証

 人証は、証人尋問と言われるもので、原告・被告本人が尋問(質問)を受ける「本人尋問」と、原告・被告以外の者が尋問を受ける狭い意味での「証人尋問」があります。人証の取り調べを申請する場合には、通例「陳述書」と呼ばれる尋問予定者の話の内容をまとめたものを作成し、尋問に先立って書証として裁判所に提出します。

 本人尋問・証人尋問は、尋問を受ける者が宣誓をした上で行います。意図的に記憶と違うことを言うと、「偽証」となり、過料の制裁が課せられますので、当たり前ですが嘘をついてはいけません。

 鑑定

 鑑定は、外部の専門家の鑑定意見を証拠にするための手続です。不動産の評価額の鑑定を不動産鑑定士に依頼する場合や、特定の病状や後遺症の有無・程度について医師に鑑定を依頼するようなケースが多いと思われます。

 鑑定人は、裁判所の用意している名簿の中から選任されるのが通例です。

 鑑定を申立てる側が費用を予納するのが原則です。鑑定費用(予納金)の目安は、内容によって20万円前後から50万円程度が多いと思われますが、難易度の高いものではさらに高額な予納金が必要になる可能性もあります。

 検証

 検証は、平たく言えば、裁判官が現場を見に行くことです。建築物の瑕疵が争点になっているときに、実際に建物を確認に行くような場合に使われます。

 証拠が手元にない場合には、他の団体に問い合わせをしたり(調査嘱託)、書面を持っている者に提出を依頼したり命令したり(送付嘱託、文書提出命令)することで、証拠を収集することも可能です(ただし、裁判所が必要と認めた場合に限ります。)。また、弁護士会を通じて、各種団体に回答や書類の送付依頼を行うこともできます。

6 訴訟 はどのように終わるのか

 訴訟の終わり方の種類

 訴訟の終わり方にはいくつか種類があります。

 数として多いのは、判決、和解、訴えの取下げです。他にも、訴訟の条件を満たさない(例:原告や被告が動物である、同じ事件について既に裁判が終わっているなど。)ことによる「却下」、被告が原告の請求を認める「請求の認諾」、請求に理由がないことを原告自信が認める「請求の放棄」などがあります。

 裁判所がまとめた司法統計によれば、令和元年・2年の簡易裁判所・地方裁判所における訴訟の終了件数・割合は、次のようになっています。

 令和元年・2年の地方裁判所における訴訟の終了件数・割合をグラフ化すると、次のようになります。

令和元年・2年の簡易裁判所・地方裁判所における民事訴訟 の判決・和解・その他(取り下げ当)終了件数の司法統計グラフ
和解

 訴訟の終わり方の一つとして、当事者が相互に譲歩して事件を解決する「訴訟上の和解」があります。

 上記の司法統計では、地方裁判所における和解による訴訟終了の割合は35~38%となっています。当事務所弁護士の感覚でも、判決と和解で半々程度、あるいは和解の方が多いくらいで、訴訟の終了事由の大きな柱と言えます。

 和解は、相互に譲歩することが求められるので、100%望んだ通りの解決にはなりません。しかし、譲歩できるところを犠牲にすることで、どうしても実現したい重要な利益を確保することができたり、比較的早期に事件が解決したり、和解内容について相手方からの任意の履行を期待できたりと、大きな利点があります。

メリット
-MERIT-

  • どうしても確保しなければならない重要な利益を確保しやすい。

Ex.賃料を滞納している借家人に対して、未払い賃料の支払いと立退きを求めて訴訟提起した。借家人は収入がないため賃料の支払いは期待できないので、賃料を免除して、その代わり速やかに立退く内容で和解した。

 家主にとっては、立ち退いてもらえば次の人に貸せるので、立退きが重要な利益と言えます。他方、収入のない人から未払い賃料を回収するのは至難の技であるため、損切りすることに合理性を見出しやすいと言えましょう。

  • 完全敗訴を避けられる
  • 相手からの任意の履行を期待しやすい

Ex. 相手方は、「自分が履行できる内容」で和解に応じるのが通常なので、和解で決めたことは守られやすいと言えます。貸したお金が帰ってこないので訴訟を起こしたところ、借主は転職によって収入が減ってしまったという事情が判明したときは、借主が払える範囲で分割払いの和解をすることが考えられます。この状況で一括払いを求める判決を得ても、借主にとって一括払いは困難で、履行は難しいと言えるでしょう。

  • 和解条項に、訴訟で請求している内容から少し離れた内容を入れることもできる

Ex. 和解内容を秘密にするという守秘義務条項を入れたり、貸金の返金を求める訴訟で分割払いを認める代わりに借主の不動産に抵当権をつける和解条項を入れる、など。

  • 控訴・上告がないため紛争が比較的早期に解決する

デメリット
-DEMERIT-

  • 請求内容の100%の実現はできない

 和解は、訴訟がある程度進んだ段階で、裁判所から「和解を検討する余地はありますか。」と言った提案がなされることが多いです。

 和解の余地がある場合には、原告、被告又は裁判所のいずれかからたたき台となる案が出て、条項を詰めていくことになります。最終的に合意に達すれば、訴訟上の和解が成立し、訴訟は終了となります。

判決

 和解が決裂した場合、当事者が最後まで主張立証を行い、裁判所が「判決」という形で判断を下します。 相手方がそもそも訴訟期日に出廷しない場合にも、判決で終了します。

 地方裁判所の事件のうち「判決」で終了したものは、上記司法統計記載のとおり、令和元年が44%、令和2年が43%程度です。訴訟終了事由の中で、和解と並ぶ柱です。

 判決での解決は、判決前から結論が見えている場合もあれば、裁判所次第で結論がどうなるのかわからない場合もあります。特に後者の場合には、和解での解決が有力なオプションになってきます。

 判決が出た場合には、その内容を見て、受け入れるのか、それとも控訴(控訴審判決が出た場合には、上告。)するのかを決めます。控訴・上告期間は、判決書を受け取った日の翌日から14日以内に行わなければなりません。控訴する場合にはひとまず控訴状・上告状(上告受理申立書)を提出し、後から詳細な主張を記した控訴・上告理由書を提出します。

7 判決の履行

 判決が出て双方が控訴または上告しなかった場合、判決が確定します。

 全部又は一部勝訴した当事者は、判決で支払い等を命じられた当事者に連絡をして、判決どおり支払い等を行う意向があるのか確認を行ます。履行する意向があるなら、任意の履行を求めます。他方、連絡がつかなかったり、履行する意思がないときは、相手の資産に対して強制執行をすることで回収します。

8 民事訴訟の一般的な流れのまとめ

訴訟の流れ イメージ

依頼者と弁護士、それぞれの作業内容

1 民事訴訟 における依頼者の役割・作業内容

概要

 民事訴訟は、基本的に依頼者の利益のために行います。弁護士はあくまでそれを手助けする立場です。従って、「事件をどのように解決したいのか」に関する方針決定は、依頼者の重要な役割です。

 また、依頼者は当事件の当事者で、その内容をもっとも身近で見聞きしており、事件内容を熟知しているのが通常です。業界の知識や背後関係にも通じています。したがって、事実関係の把握と弁護士への説明も、依頼者の役割の一つです。

具体的な役割・作業内容

 依頼者の役割・作業内容としては、概ね次のような内容になることが多いと思います。

  • どういう解決を希望しているのか、明確にする
  • 事実経過を整理して弁護士に伝える
  • 手持ちの証拠を収集して弁護士に渡す
  • 弁護士が作成した書面の確認及び修正点の提案
  • 尋問の準備をして、尋問を受ける
  • 和解案を検討する
  • 判決が出た場合に、控訴・上告の検討
  • 訴訟の終了事由に応じた対応
    (判決や和解内容の履行、入金確認など相手の履行の確認)

2 民事訴訟 における弁護士の役割・作業内容

概要

 民事訴訟での弁護士の役割は、依頼者の希望を法律的に構成し直して、その希望ができる限り認められるように訴訟上の活動を行うこと、であると思います。

具体的な役割・作業内容

 弁護士の役割・作業内容としては、概ね次のような内容になることが多いと思います。

  • 依頼者の希望を、法律的に構成し直す
    (法律上、何という請求権なのか判断する)
  • 法律上の請求権の要件事実を特定する
  • 要件事実を裏付ける証拠を探す
  • 依頼者の請求について見通しを持つ
  • 相手の主張の分析
  • 法律面や立証活動等の専門的な内容を、依頼者にわかりやすく解説する
  • 主張書面の作成、証拠収集・選定、証拠提出の準備
  • 尋問の準備・実施
  • 和解案を検討する
  • 判決後の控訴・上告の検討
  • 訴訟の終了事由に応じた対応
    (判決や和解内容の履行、入金確認など相手の履行の確認)